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仙台高等裁判所 昭和44年(ネ)348号 判決

主文

一  原判決中控訴人国に関する部分を取消す。

二  被控訴人らは各自控訴人国に対し金一八四万七、三九六円及びこれに対する昭和四〇年二月二七日からその支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人千葉利、同千葉ちえ子、同千葉洋一、同千葉幸二の本件控訴をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、控訴人国と被控訴人らとの間に生じた部分は、第一、二審とも被控訴人らの負担とし、控訴人千葉利、同ちえ子、同洋一、同幸二の控訴費用は同控訴人らの連帯負担とする。

五  この判決第二項は仮に執行することができる。

事実

一  控訴人国代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らは各自控訴人国に対し、金一八四万七、三九六円及びこれに対する昭和四〇年二月二七日からその支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を、控訴人千葉利、同ちえ子、同洋一、同幸二代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らは各自控訴人利に対し金二四〇万円、控訴人ちえ子、同洋一、同幸二に対し各金一七〇万円及び右各金員に対する昭和四二年一〇月四日からそれぞれその支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言をそれぞれ求め、被控訴人ら代理人は、各控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  控訴人国の主張

(一)  被控訴人佐々木義雄運転の軽四輪貨物自動車(以下「被告車」という。)の速度は最低でも時速四〇キロメートルであつた。同被控訴人は実況見分の際三〇キロメートルと指示説明し、警察における取調に対しても三〇キロメートルと供述したにかかわらず、同じ取調中に信号待ちするよりもよいと思つて二〇キロメートル位にあげて交差点に進入した旨矛盾した供述をし、さらに検察官に対しては「交差点に入る前は二〇キロメートル位でしたが、ブレーキに足をかけて一五キロメートル位で交差点に入つたのです。」と供述し、日時を経るに従つて当時の速度をことさらに低目に述べ、供述に一貫性がないから、同被控訴人の供述は信用するに値いせず、目撃者の証言こそ客観性を帯び信用できるものである。被害者千葉幸穂運転の原動機付自転車(以下「被害車」という。)の飛ばされた位置、同人の傷害の部位、程度からみても、時速二〇キロメートルとは到底考えられない。原判決は採証の方法を誤りひいては事実認定の誤りをおかしたものである。

(二)  千葉幸穂は対向車に注意を払つて右折したものである。被控訴人佐々木は時速四〇キロメートル以上の速度で被告車を運転し、しかも運転席でドアに寄りかかつて身体をよじつた状態で本件交差点に進入し、前方不注視のため被害車の発見がおくれこれに衝突したものであつて、被害車が渋滞車の間から突如として現われたので、そのとき初めてこれを発見し得たものとは思われない。原判決はこの事実を誤認している。

2  控訴人千葉利、同ちえ子、同洋一、同幸二の主張

(一)  被告車が交差点にすでに進入した後に被害者が交差点で右折したものではなく、被害車がさきに右折していたものであり、本件事故は被控訴人佐々木が前方を注視してさえいれば避け得たものである。被告車とその先行車との間隔はかなりあり、被告車が進入する前に右折してくる車があることが十分予想される場合であるから、同被控訴人としては当然前方を注意し徐行すべき義務があつたのに、すでに右折している被害車に直前まで気がつかず、漫然約四〇キロメートルの速度で進行してきたものである。

原判決が一貫性を欠く同被控訴人の供述のみを重視してその余の証拠を排斥し、被告車の時速を約二〇キロメートルと認定したのは事実の誤認である。

(二)  仮に二台の大型バスの位置が原判決認定のとおりであるとしても、両者の間隔はかなりあり、被控訴人佐々木が前方を注意していれば衝突地点のかなり手前から被害車が大型バスの直前を左から右に横切つて右折進行してくるのを発見し得た筈であり、また、交差点付近に車両が渋滞していたとしても、目撃者福田倆三が停車していた位置(当審における検証図面表示の(ホ)点)から松屋デパートの正面入口付近まで見通せる程度のものであり、同被控訴人も数一〇メートル手前から交差点内を十分見通せた筈である。原判決はこれらの点からみても明らかな事実誤認がある。

3  証拠関係〔略〕

理由

一  被控訴人陳岡安造が酒類販売業者であり、被控訴人佐々木義雄が同陳岡の雇用する自動車運転者であること、被控訴人佐々木が控訴人ら主張の日時頃被控訴人陳岡所有の被告車を運転し、盛岡市内川徳デパート方面から中の橋方面に向け進行中、同市中の橋一丁目一番一五号先の本件交差点において、訴外亡千葉幸穂運転の被害車に衝突し、同人をその場に転倒させたことはいずれも当事者間に争いがない。そうして〔証拠略〕によると、千葉幸穂は右事故により左下肢複雑骨折、左第一二肋骨骨折の傷害を受け栃内整形外科(医師栃内巌)に入院して加療を受けたこと、その後幸穂は胸部に異常を来たし昭和三九年一〇月二四日午後意識不明に陥入つたため、岩手サナトリウム(医師根本四郎)に転入院して治療を受けたが、同月二六日午前七時二五分肺うつ血により死亡したこと、幸穂には以前肺結核の病変があつたが非常に古いもので、右死因とは全く関係なく、右死因は本件事故により生じた下肢複雑骨折による脳及び肺の脂肪栓塞に基因する脳出血及び肺出血に伴なうものであることがいずれも認められ、これに反する証拠はない。したがつて幸穂の死亡と本件事故により受けた傷害とは相当因果関係に立つものというべきである。

二  そこで本件事故につき被控訴人佐々木に過失があつたかどうかについて判断する。〔証拠略〕を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場は南東川徳デパート(南大通り)方面から北西中の橋(東大通り)方面に通ずる道路と北東紺屋町方面から南西清水町(呉服町)方面に通ずる道路とが若干中央線がずれて交差する変形十字路の交差点内であり、右各道路ともほぼ平坦なアスフアルト舗装道路である。道路の幅員は、北西中の橋方面から本件交差点に至る道路(国道四号線、以下「甲道路」といい、その横断歩道を「(4)の横断歩道」という。)は車道九・〇五メートル、両側の歩道各三メートル、南東川徳デパート方面から本件交差点に至る道路(県道、以下「乙道路」といい、その横断歩道を「(2)の横断歩道」という。)は車道一〇・〇五メートル、両側の歩道各三メートルであり、北東紺屋町方面から本件交差点に至る道路(県道、以下「丙道路」といい、その横断歩道を「(1)の横断歩道」という。)は車道九・六〇メートル、南西清水町から本件交差点に至る道路(国道四号線、以下「丁道路」といい、その横断歩道を「(3)の横断歩道」という。)は車道一〇・〇六メートルである(当時国道四号線は本件交差点で直角に曲つていた。)。本件交差点は信号機により交通整理が行なわれており、当時甲道路、丁道路は時速四〇キロメートル、乙道路、丙道路は時速三〇キロメートルの速度制限があり、甲道路から丁道路に右折する車両に対しては二輪車を除き右折禁止の規制がなされていた。本件事故当時降雨はなく道路は乾燥していた。

2  千葉幸穂は県庁における用務を終えて被害車を運転し、中之橋を渡り甲道路を進行し、本件交差点を右折して丁道路を岩手食糧事務所へ帰るべく、進路をあらかじめ甲道路中央に寄ろうとしたが、甲道路から乙道路への方向は多数の自動車でつまつて交通が渋滞していたため寄ることができず、甲道路の左寄りを右折の方向指示器を点滅させて進行し、本件交差点の手前((4)の横断歩道の手前)に達し一時停止した。この時信号は青であつたが、幸穂の右側甲道路の中央寄りを進行して本件交差点手前に達した岩手中央バスの運転者佐藤彰は先行する大型バスが本件交差点を渡り切れずにその後部を交差点内に残して停止したため、信号が青のうちに交差点を渡り切れるかどうかの判断に迷い、その前部がやや(4)の横断歩道にかかつたあたりで一時停止し信号待ちをしていた。また後からきた黒色の乗用車も停止し、その運転者が幸穂に対し右折するように合図したので、同人は直進してくる対向車も見えなかつたため発進し、ハンドルを右に切つて右バスの前方を左から右へ横切り本件交差点の中心方向へ進入し、まさに右折完了に近い状態に達したが、その位置は交差点の中心の直近の内側よりかなり手前であつた。

3  被控訴人佐々木は川徳デパート附近の火事見物をしての帰途、乙道路から甲道路に向うべく、乙道路の左側部分のほゞ中央を時速約三〇キロメートルで被告車を運転して本件交差点手前に差しかかつたが、その時信号は青であり、先行車は約一〇メートル前方を進行していてその進路は交通渋滞がなかつたので、信号が青であるのを確認し先行車に続いて本件交差点を通過できるものと過信し、そのままの速度で進行した。しかし同被控訴人は前方を注視していなかつたため、すでに本件交差点に進入して右折完了に近い状態であつた前記被害車を右前方数メートルに発見しあわてて急ブレーキをかけたが間にあわず、被告車の前部左側バンバー附近を被害車の左側面に衝突させた。幸穂は被告車の左前方約六ないし七メートルのあたりに被害車もろとも飛ばされてその附近に転倒した。

4  中の橋方面から川徳デパート方面へ甲道路及び乙道路を進行する車両は停滞していたとはいえ、前記岩手中央バスが(4)の横断歩道で発進を見合わせたため、その後被告車が乙道路から本件交差点に進入した当時、右バスの先行車は交差点を通過し終つており、交差点内には被害車以外は進入しておらず、被告車と被害車との間には障害物はなく、しかも本件交差点が変形十字路であり甲道路の中央線が乙道路の中央線より約三メートル南西方向にずれているから、被控訴人佐々木は前方を注視していれば、甲道路から丁道路へ右折しようとしている被害車を(2)の横断歩道附近少くとも衝突地点の約一〇メートル手前で発見できる状態にあつた。

5  同被控訴人は本件交差点を常時(一日に三往復程度)通行しており、附近の道路状況、交通事情にはくわしく、とくに本件交差点が変形十字路であつて当時甲道路から丁道路への右折禁止の規制が二輪車について除外されていたことを知つていた。

前掲各証拠のうち、叙上認定と符合しない証言又は供述部分、〔証拠略〕は、いずれもたやすく措信しがたい。

三  以上認定の事実によると、幸穂は被害車が本件交差点にさきに進入し右折完了に近い状態にあつたとはいえ、交差点の中心の直近の内側よりもかなり手前を小廻りして斜めに横断しているから、「交差点において既に右折している」場合(道路交通法三七条二項)には該当せず、直進車の「進行を妨げてはならない」場合(同条一項)であるということができ、とくに左方向に注意を払い直進しようとする車両があるかどうかを確かめたうえ進行すべき義務があるのにこの義務を怠り、漫然直進車の進路前方を横断したものであるから、同人に過失があることは明らかである。

一方被控訴人佐々木は信号に従い制限速度で直進したものであり、かつ、事故当時幸穂運転の被害車は「交差点においてすでに右折している」場合に該当せず直進車優先の場合であること右判示のとおりであるから、同被控訴人には一応道路交通法の右規定に違反する点はないものとみてよい。

しかしながら前方注視及び安全確認義務は自動車運転者たる者の重要かつ基本的な義務といわなければならないのであつて、交差点において信号が青であつても直進車としては前方を注視し、右折車が全く見られない場合は格別、右折車を認めたときはその動向に注意を払つて進行すべきはもちろんであつて、同法三七条一項と二項とは微妙な関係に立ち自動車運転者は「すでに右折している」かどうか、したがつていずれが優先するか、突嗟の場合には決しがたいこともあるから、二項の場合は徐行義務があり一項の場合は徐行義務がないと截然区別できるものではなく、前方を注視して臨機の措置をとりうる速度で進行すべきは当然であり、直進車は同条一項の場合でも前方注視及び安全確認義務と無関係に常に信号に従い制限速度内で直進してよいとは限らない。本件についてみるに、被控訴人佐々木は本件交差点において進行方向の信号が青であつたため先行車に続いて本件交差点を通過できるものと過信し、漫然時速三〇キロメートルで進行し、交差点内にはすでに対向する車両はなく障害物もなく、幸穂運転の被害車が右折しようとして交差点の中心方向へ進入してきているのを容易に発見し、かつ、予測できる状態にあつたのにかかわらず、前方注視義務を怠り被害者を直前において発見しあわてて急ブレーキをかけたが間に合わず衝突するに至つたものであり、しかも本件交差点が変形十字路であつて甲道路の中央線が乙道路の中央線より南西方に約三メートルずれており、本件交差点においては甲道路から丁道路への二輪車の右折が禁止されておらず、同被控訴人はこれらのことを知つていたこと右認定のとおりであり、とくに被告車が進行してきた乙道路の左寄りの進路は被害車が右折しようとしていた甲道路の中央線とほぼ一直線上にあり、乙道路から見れば被害車は交差点の中心をすでにこえているように見られる位置関係にあるのであるからなおさらのこと、被控訴人佐々木が前方を注視して被害者を発見し、適切な措置を講ずれば本件事故は防止できたものというべく、同被控訴人にも少くとも前方注視及び安全確認義務を怠つた過失があるものといわなければならない。

当裁判所が以上のような事実認定及び判断をなすに至つた理由を若干敷衍して付け加えるに、被控訴人佐々木の実況見分の際の指示説明、警察及び検察庁における取調の際の供述、原審及び当審における供述(検証の際の指示説明を含む。)が被告車の速度、被害車との衝突地点、幸穂及び被害車の飛ばされた地点、交差点内の事故当時の状況等について一貫性がなく、日を経るに従つて自己に有利なように変転してきており、少くとも〔証拠略〕記載の同被控訴人の指示説明は事故直後未だ記憶の新らしい時期に自らの意思でなされたものでもつとも信を措けるものであり、警察官が同被控訴人の指示と異なつた図面を作成したり、同被控訴人の指示が強制によりなされ、任意性がなかつたというようなことは考えられない。また、本件事故の目撃者としては、(1)の横断歩道のところで停車していた軽四輪車の運転者福田倆三と助手席にいた佐々木義男、(4)の横断歩道のところで停車していた岩手中央バスの運転者佐藤彰が主要なものであるが、真横から目撃した右福田、佐々木は位置関係からみてもつともよく事故当時の状況を捉え真相を語る者といえるのであり、その各証言は客観性を帯び信用に値するものと認められ、被害車が渋滞している車の間から突如飛び出してきたとは考えられない。被告車の速度は被害者の飛ばされた位置、幸穂の傷害の部位、程度からみても少くとも時速三〇キロメートルは出ていたものと認められる。

四  そこでまず控訴人国の請求について判断する。

1  損害額

(一)  幸穂の損害

(1) 療養費金三万四、七九六円

〔証拠略〕によると、控訴人国主張の期間、その主張の病院における幸穂の診療費が金三万四、七九六円であることが認められる。

(2) 逸失利益金八六五万五、一九一円

〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(イ) 幸穂は本件事故当時岩手食糧事務所に農林技官として勤務する国家公務員であり、当時の毎月受ける給与は本俸金四万三、九〇〇円(行政職俸給表(一)五等級一〇号)、扶養手当金二、〇〇〇円(妻、子三人)、合計金四万五、九〇〇円であり、死亡当時満四一年の健康な男子であつたから満六〇年をもつて勧奨退職するとして少くとも今後一八・四年は勤続可能であつた。したがつて幸穂がその間に得べかりし給与等の金額は、原判決添付別紙第一「明細書」記載のとおり本俸、扶養手当、期末勤勉手当等合計金一六九三万二、一九四円となり、退職手当の金額は、右「明細書」記載のとおり金三五三万四〇〇〇円となる。

(ロ) 幸穂は妻及び三人の子(当時長女一七歳、長男一四歳、次男一一歳)と生計を共にしており、内閣統計局家計調査報告による消費単位指数(本人一・〇、妻〇・九、長女〇・九、長男〇・八、次男〇・八)により、幸穂の生活費(四・四分の一・〇)を右給与等の金額から控除すると、金一三〇八万三九六九円(円未満切捨)となるから、同人が取得すべき金額はこれと前記退職手当の金額との合計金一六六一万七九六九円となり、ホフマン式計算により年五分の中間利息を控除して一時に請求できる金額を算出すると金八六五万五一九二円(円未満切捨)となる。

〈省略〉

(二)  控訴人千葉利の財産的損害金二〇万五、一一一円

〔証拠略〕によると同控訴人は原判決添付別紙第二「請求葬祭費内訳」記載のとおり葬祭費として少くとも金二〇万五、一一一円を支出し、同額の損害を被つたことが認められる。

(三)  控訴人らの慰藉料

以上認定の幸穂の職業、地位、健康状態、家族関係、本件事故当時の状況、幸穂及び被控訴人佐々木の過失の程度その他諸般の事情を考慮すると、一瞬にして一家の支柱を失つた控訴人千葉利らの精神的苦痛は容易に償い得られるものではなく、その慰藉料の額は、少くとも控訴人利については金五〇万円、同ちえ子、洋一、幸二については各金二五円〔更正決定各金二五万円〕をもつて相当とする。

(四)  控訴人利らは右(一)の(1)(2)の幸穂の損害賠償請求権につき控訴人利三分の一、同ちえ子、洋一、幸二各九分の二の各割合により相続したことは、〔証拠略〕により明らかである。

2  ところで本件事故については被害者である幸穂と加害者である被控訴人佐々木とに過失があることさきに認定のとおりであり、前認定の事実を総合すると、その過失割合は幸穂七に対して同被控訴人三と認めるのが相当である。

3  以上の次第で、被控訴人陳岡は運行供用者として自賠法三条、同佐々木は民法七〇九条の各規定により各自控訴人利に対しては前記1の(一)の(1)(2)の合計金八六八万九九八八円の三分の一の金二八九万六六六二円(円未満切捨)と同(二)の金二〇万五一一一円との合計額の一〇分の三に相当する金九三万〇五三一円(円未満切捨)、同(三)の金五〇万円、総合計金一四三万〇五三一円、同ちえ子、洋一、幸二に対してはそれぞれ同(一)の(1)(2)の合計金八六八万九九八八円の九分の二の金一九三万一一〇八円(円未満切捨)の一〇分の三に相当する金五七万九三三二円(円未満切捨)、同(三)の金二五万円、総合計金八二万九三三二円の損害賠償義務を負うところ、同控訴人らは昭和四〇年八月五日自賠責保険金一〇三万九四九六円を受領した(この点は当事者間に争いがない。)から、これを各相続分に応じて前記損害金から控除すれば、控訴人利に対しては右金一四三万〇五三一円から金一〇三万九四九六円の三分の一の金三四万六四九八円(円未満切捨)を控除した金一〇八万四、〇三三円、同ちえ子、洋一、幸二に対してはそれぞれ右金八二万九、三三二円から金一〇三万九四九六円の九分の二の金二三万〇九九九円(円未満切捨)を控除した金五九万八三三三円(全員に対する合計金二八七万九〇三二円)となる。

4  次に〔証拠略〕によると、農林大臣は昭和三九年一二月二日国家公務員災害補償法に基づき幸穂の本件事故を公務上の災害と認定して控訴人利に対しその旨の通知をし、農林省岩手食糧事務所は昭和四〇年二月二六日同控訴人に対し、遺族補償として金一七一万円、葬葬補償として金一〇万二六〇〇円、療養補償として金三万四七九六円、合計金一八四万七三九六円を給付したので、同法六条一項の規定により右給付額の限度で、遺族が被控訴人らに対して有する損害賠償請求権を取得したことを認めることができる。そうすると、被控訴人らは各自控訴人国に対し金一八四万七三九六円及びこれに対する右給付の日の翌日である昭和四〇年二月二七日からその支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものといわねばならない。

五  次に控訴人利、ちえ子、洋一、幸二の請求について判断する。

1  損害額

(一)  幸穂の損害―逸失利益金一四二八万七二五一円

(1) 控訴人利、ちえ子、洋一、幸二は控訴人国と異なる算定方法をとり、事故時を基準としながらも、それ以後(弁論終結前)の一般職の給与に関する法律の一部を改正する法律、人事院規則等に準拠して基準時以後に増額が実施されたもの、暫定手当の本俸繰入れが実施されたものについても逸失利益の算定に当り考慮しているが、真の逸失利益により近い数値が得られるものと考えられるから、かかる算定方法はこれを是認すべきである。

(2) 前記四1(2)に認定した事実と〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(イ) 幸穂が満六〇歳をもつて勧奨退職するとして勤続可能であつた一八・四年間に得べかりし給与等の金額は、原判決添付別紙第三「千葉幸穂にかかる給与等計算書」記載のとおり、本俸、扶養手当、期末、勤勉手当等合計金二三二二万二四七四円となり、退職手当の金額は金四九三万六八〇〇円(勤続年数三八年九月)となる。

(ロ) 幸穂の余命はなお三一・四三年(昭和四一年簡易生命表)を下らず、満六〇歳に達し昭和五八年三月末日に退職するとすれば同年四月から同人が満七二・四三歳に達する昭和七〇年五月まで国家公務員共済組合法及び同法の長期給付に関する施行法により年金として受領することができる金額は同第四記載のとおり金七七四万三七八五円となる。

(3) 右給与等の金額金二三二二万二四七四円と右年金額金七七四万三七八五円の合計金三〇九六万六二五九円から前認定の割合で幸穂の生活費を控除すると、金一七九四万四六三九円と金五九八万三八三四円合計金二三九二万八四七三円(円未満切捨)となるから、同人が取得すべき金額はこれと前記退職手当の金額金四九三万六八〇〇円となり、ホフマン式計算により年五分の中間利息を控除して一時に請求できる金額を算出すると、前者は金一一七一万六〇〇一円(円未満切捨)、

〈省略〉 後者は金二五七万一二五〇円

〈省略〉

合計金一四二八万七二五一円となる。

(二)  控訴人千葉利の財産的損害金二〇万五一一一円

前認定のとおり

(三)  控訴人利の慰藉料金五〇万円、同ちえ子、洋一、幸二の慰藉料各金二五万円

前認定のとおり

(四)  控訴人利ほか三名が昭和四二年九月一六日訴訟代理人に対し手数料及び謝金として控訴人利は金二四万円、同ちえ子、洋一、幸二は各金一七万円を第一審判決言渡の日に支払うことを約したことは当事者間に争いがない。

(五)  控訴人利らが幸穂の損害賠償請求権を相続したこと前認定のとおり

2  過失相殺の割合前認定のとおり

3  以上の次第で被控訴人陳岡は運行供用者として自賠法三条、同佐々木は民法七〇九条の各規定により各自控訴人利に対しては前記1の(一)の合計金一四二八万七二五一円の三分の一の金四七六万二四一七円(円未満切捨)、同(二)の金二〇万五、一一一円、同(四)の金二四万円との合計額の一〇分の三に相当する金一五六万二二五八円(円未満切捨)、同(三)の金五〇万円、総合計金二〇六万二二五八円、同ちえ子、洋一、幸二に対してはそれぞれ同(一)の合計金一四二八万七二五一円の九分の二の金三一七万四九四四円(円未満切捨)と同(四)の金一七万円との合計額の一〇分の三に相当する金一〇〇万三四八三円(円未満切捨)、同(三)の金二五万円、総合計金一二五万三四八三円の損害賠償義務を負うところ、同控訴人らは前記認定のとおり自賠責保険金一〇〇万円(金三万九四九六円は療養費相当分であるから算入しない。)、幸穂の公務災害による遺族補償として金一七一万円を受領したほか、退職手当金として金一三二万六九五〇円を受領(この点は同控訴人らの自認するところである。)し、さらに〔証拠略〕によると、遺族年金として昭和三九年一一月から昭和四六年五月まで総額金六〇万五四九六円

8万4488円×6+16万8974円×7/12=60万5496円

を受領し、同年六月から昭和七〇年一〇月までの間に金四二八万四六一七円を受領することができ、後者につきホフマン式計算により年五分の中間利息を控除すると金一九二万五六七〇円

〈省略〉

となることが認められるから、これらを各相続分に応じて前記損害金から控除し、また、控訴人利は前記認定のとおり幸穂の公務災害による葬祭補償として金一〇万二六〇〇円を受領したからこれを同控訴人の前記損害金から控除すれば、控訴人利の損害金は、金二〇六万二二五六円から前記自賠責保険金、遺族補償金、退職手当金及び遺族年金の合計金六五六万八一一六円の三分の一の金二一八万九三七二円及び葬祭補償金一〇万二六〇〇円を控除して差引零となり、同ちえ子、洋一、幸二の損害金は、それぞれ金一二五万三四八三円から前記金六五六万八一一六円の九分の二の金一四五万九五八一円(円未満切捨)を控除して差引零となる。

そうすると、控訴人利、同ちえ子、同洋一、同幸二の損害はいずれも補填されたものというべきである。

六  よつて控訴人国の本訴請求はすべて正当としてこれを認容し、控訴人利、ちえ子、洋一、幸二の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきところ、控訴人国の請求を棄却した原判決は失当で、同控訴人の本件控訴は理由があるから、原判決中同控訴人に関する部分を取消し、控訴人利、ちえ子、洋一、幸二の請求を棄却した原判決は結局のところ相当で、同控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、民訴法三八六条、三八四条二項、九六条、九五条、九三条但書、八九条、一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 羽染徳次 田坂友男 佐々木泉)

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